合格、その後
小学校のお受験が終わるとご両親はほっとします。
なにもかも投げうって、やっとつかんだ合格。ご夫婦とお子さま、三人でがんばりぬいた結果が報われた――。その安堵感たるや、どれほどのものでしょう。重い荷を肩からおろしたように、中にはもう「これで我が子に対する責務は果たした!」とお思いになるご両親がいるかもしれません。
ですが、ほんとうにそうなのでしょうか?
ご両親の、そしてお子さまのがんばりはむしろここからはじまるのです。
毎年、受験に合格された直後にお教室をお辞めになる生徒さんがいらっしゃいます。
「ありがとうございました。先生のお力添えで合格することができました」
ご両親はそうお礼のお言葉を述べられます。わたしどもも役割を果たして安堵します。ですが、何年もこうしたやり取りを続けているうちに、これでほんとうによいのか? という疑念が頭にもたげるようになりました。数年ぶりに再会してみると、合格なさったお子さまの中に小学校の授業についていけず、つらい思いをしている子がいることがわかったからです。せっかくがんばって合格したのに、こうしたお子さまはどうしてそうなってしまったのでしょう?
『お受験用の学習』と『ほんとうの勉強』
お子さまは急に頭が悪くなってしまったわけではありません。変化したのはまわりの「環境」です。
受験直前、お子さまはお教室できびしく指導されます。ペーパー、行動観察、面接での受け答え……。そして大きな声であいさつができたり、はきはきとお返事をするようになった我が子を見て、ご両親は「うちの子はもう大丈夫」と思います。そしてこうお考えになります。ぶじ合格したことだし、一年生になったらもう少しゆっくり、のんびりさせてあげよう、と。
長い間、お子さまのがんばりを間近で見てきたご両親にすれば、これは無理からぬお気持ちでしょう。しかし、それは大きなまちがいです。
なぜならこうしたお子さまたちは、「ほんとうの意味で」机にむかう習慣が身についたわけではないからです。合格したことに油断し、日々の努力をおこたれば、たちまち以前の状態へもどってしまいます。
そもそも『お受験用の学習』と『ほんとうの勉強習慣』は大きく異なります。ご両親は面接などであまりにりっぱになった我が子を見てつい誤解されがちですが、こうしたお子さまのふるまいはあくまでお子さま自身がお受験用に努力してつくりあげたもので、仮の姿にすぎません。
もちろん以前にくらべて落ち着きが出たり、あいさつがしっかりしていたりと、さまざまなよい変化はありますが、それはお子さまが今後よりよく成長していくための基礎・土壌のようなものです。
土を耕しても、それに満足して手を入れず、放っておいたのではよい苗が育たないのはあたりまえです。
ゆだんは禁物
考えてもみてください。お子さまはまだ六歳なのです。たった六歳で日々のお勉強習慣が身についたり、努力のたいせつさを理解しているはずもありません。
それでなくても小学校入学はこどもにとって大きな変化です。毎朝早く起きなくてはいけませんし、重たいランドセルも背負わなければなりません。ひらがな、カタカナ、漢字と学ばなければならないことはたくさんです。よい小学校に入れたぶん、授業のレベルも高くなります。本当の意味での努力がこれからはじまるのに、「合格した」というだけでご両親がなにかを達成したような気持ちになり、子育てに油断が生じてしまっては元も子もありません。
小学校でお勉強についていけなくなる子のパターンはこうです。
- お受験に合格したことでご両親がお子さまの実力を過信する
- 合格と同時に教育するのをやめる(塾をやめ、学校に通わせるだけになる)
- お勉強から解放され、お子さま自身が努力しなくなる(学習習慣がなくなる)
- だんだん授業についていけなくなる(勉強がきらいになる)
- 学校で座っているだけのお客さんをするようになる
上の子たちに共通するのは、やはり「合格したとたん、両親がなにもしなくなる」という点です。これまで努力されてきたように、お子さまの教育環境や学習習慣を維持していかなければ、せっかくのびたお子さまの実力もあっという間に元にもどってしまいます。この時期の幼児は短い期間に大人がおどろくほどの成長・発達を見せますが、それが失われていくスピードもまた早いのです。
学校の授業中、なにが行われているのかがわからず、クラスメイトたちが元気よく手を上げて発表したり、たのしそうに授業に参加しているのをうらやましく思いながら、何時間もただ自分の椅子に座っている。学校で「お客さん」をやることほど、こどもたちにとって苦しいことはありません。
では、ご両親はいったいどうすればよいのでしょう?
それは「継続」です。
合格したからといって油断せず、この数年間のゆたかな成果をしっかり小学生時代へとつなげること。お受験期間中にお子さまが身につけた「ねばり強くがんばる気持ち」を失わせることなく継続させ、あらたな小学生生活につなげていくことです。
具体的には、やはり小学入学後の数年間は当教室のような英才教室に通い、かつご両親がお子さまのすぐ傍らで毎日お勉強を見てあげるのがよろしいでしょう。わからなくて困っていたら手を貸してあげてもかまいません。
小学校に入学したからといって急に無関心になったりするのではなく、お子さまがきちんと学習習慣を身につけられるまで、しんぼう強く、愛情と関心を持って横でささえてあげること。学習面でお子さまがこまったり、ちょっとつまづいたりしたときには、もどってこれる場所をきちんと確保しておいてあげること。それこそが、いまご両親が我が子にしてあげられるもっとも大切なことなのです。