おうちの中こそ生活の原点
お子さんにとって、どんな家庭で育ったのかということは、その後どんな教育を受けたのかということよりもはるかに重要な宝となります。
いわゆる幼児教室や幼稚園、小学校でできることはたくさんありますし、こうした機関に子育てのなんらかを期待されているご両親もいらっしゃるでしょう。ですが、やはり子育ての基本は家庭です。
就学前、お子さまがお母さまのかたわらですごすこの時期にご家庭で学べることは他の育児機関にくらべて圧倒的に多いのです。
時間的なことから比較しても、ご両親、とくにお母さまのおよぼす影響力にくらべれば先生方の影響力など月の前のホタルといっても過言ではありません。
そこで重要になってくるのがお子さまのおうちでのすごしかた、いわゆる「家庭生活の質」です。
これは小学校受験を希望されているお母さまだけでなく、そのおつもりのないお母さまにもつねに心に留めておいていただきたい事柄です。
「受験」や「進学」は、たしかにとても重要な事柄とはいえ、いわば人生の上でのエポック・短期目標にすぎませんが、「子育て」という言葉にふくまれるご家庭での保育・知育・食育は、お子さんのその後の未来や将来に密接に関わってきます。
とくに生後直後から小学入学をする六歳までの乳児期〜幼少期のひとときは、まさに子どもにとって黄金とも言うべき時間であり、お子さまのその後の人格形成や生活習慣に決定的な影響をおよぼします。
おうちの中こそ教育の原点。
であるがゆえに、お若いお母さまにはご家庭内での質の高い生活に心をくばっていただく必要があるのです。
家庭生活の質ってなんだろう?
では、家庭生活の「質」とはそもそも具体的にどういったものなのでしょうか? お子さまは日々変化成長する命そのものであり、それを見守るご両親もまた毎日のお仕事や雑事の中でつねにゆらぎ、うつろいゆく存在です。
そのため『家庭生活の質』といっても一言ではなかなか表しづらい面がありますので、ここでは「育児における家庭生活」をおおきく三つにわけて考えていきましょう。
1 健康と発育
2 生活習慣
3 しつけ・マナー
1の「健康と発育」はお母さまにとってもっともなじみ深いものかと思います。食事や睡眠、入浴など、お子さまのすこやかな成長を支えるための生活習慣全般がこれにあたります。
どのご家庭でも、お母さまであればいつも気にかけていらっしゃる事柄ばかりですからどの方も百点満点……といいたいところですが、よくよく注意してお子さまを見てみると、ときどき「おや?」と思うことがあります。
たとえばお昼の時間にお弁当箱のふたをあけてみると、お肉ばっかりで緑のものがひとつもなかったり、そもそもお野菜の名前をまったく知らなかったり。
子どもの食習慣は100%、親のそれに倣います。それだけにお母さまの食育に対する責任は重大です。また、おなかいっぱい食べさせるばかりで、運動をしないのも小さい頃はともかく、将来の肥満の遠因となりよくありません。
よく食べ、よく運動し、よく頭をつかい、そしてよく眠る。何事もバランスが大事です。
2の「生活習慣」は、一言で言えばその年齢にふさわしい生活習慣が身についているか、です。ご家庭のあり方や考え方はさまざまであり、一概には言えませんが、就学前の一般的なお子さまなら基本は以下のようなものでしょう。
・毎日、決められた時間に寝起きをしているか?
・毎日、決められた時間に食事を取っているか?
・おうちで何か決められたお手伝いをしているか?
こういった事柄を私どもが指摘すると、たいていどの親御さんも「やっています」とおっしゃいます。それではと思い、お子さまに「今日なんじに起きたの?」と聞いてみると、答えられる子はほとんどいません。
つまりお子さまは時計の針や時間を認識しているわけではなく、ただ母親に「起きなさい」と言われたから起きているだけなのです。これではとても生活習慣とは言えません。
「きのうの夕ごはんはなにを食べたの?」
「おうちでなにかお手伝いをしてる?」
という質問に対しても同じです。
お子さま自身が今自分がなにをしているのか、なにをしなければならないのかを、お母さまがひとつずつ言葉で教えてあげること。
そこから習慣や規律というものがお子様の内に育まれていくのですが、それができているご家庭はほとんどないというのが実情です。
以上はほんの一例ですが、こうした自律的・他律的な生活習慣がお子さんの知育、発育に占める割合はたいへん大きく、これらができているご家庭とそうでないご家庭の差は、数年後に何よりもお子さまご自身の上にはっきりとした形となって現れてきます。
ご両親がともにおそくまで働いている、いそがしいためどうしても子どもと接する時間が不規則になりがち、など、なかなか理想通りにはいかないことは多いですが、ご夫婦でたがいに協力しあい、少しずつ努力することによって、自分のことは自分でできる、すこやかな子どもが育つのです。
3の「しつけ・マナー」はいささかむずかしい問題をはらんでいます。そもそもこの二つはお子さまが他者と出会う機会がなければ、必要のないものだからです。
おうちと幼稚園を行き来するだけの、みずしらずの他人と接触の少ない子どもがまだ備わっていないのはある意味当然ですし、またそれができているかいないか、ご両親には見きわめがむずかしい事柄でもあり、それがややこしさに拍車をかけます。
これもお母さまがたがよくおっしゃることですが、マナーやあいさつについてこちらが言及すると、「うちの中ではできています」というお答えをいただくことがあります。
ですが、いささか厳しいことを申し上げれば、たとえおうちの中ではあいさつが完璧でも、外出先で知らないおばさんに相対したときにお母さまの背中にかくれてしまうようでは何の意味もありません。
見ず知らずの人間、一度も接したことのない人間に対してきちんと礼儀正しくふるまうことができて、はじめて「しつけ」や「マナー」ができているという評価が下るのです。
そしてその評価を下すのは身内ではなく、赤の他人です。
小学校受験という場ではまさに知らない人、知らないシチュエーションの連続です。受験会場で試験官は子どもの一挙手一投足にするどいまなざしをむけ、何かミスを見つければ容赦なくチェックします。(会場内ではお子さまとお母さまが手をつないだ瞬間、即不合格となってしまうのです)
生まれて初めて味わう不安や緊張感の中、子どもはとまどいますが、それを見事に乗りこえたとき、見違えるような立派な子になります。不思議なもので、これは受験の合否とは一切関係ありません。
あくまでお子さま自身の「ぼくはやった!」「わたしはやりきった!」という達成感や自己評価がお子さま自身を変えるのです。
倫理や道徳といったいわゆる情操面の教育は、かつては近親者や目上の人間が教えてくれたものでしたが、日本の時代の移りかわりとともにそうしたこともなくなり、今日ではどの家庭もお若いお父さまやお母さまがその場その場で懸命にお子さまをほめたりしかったりしているというのが実情ではないでしょうか。
こういった情操面での素養は今日でも、いや今日だからこそ大事なことであることはまちがいありません。
当教室が行うさまざまな実践的な授業もまた、一人でも多くのすばらしいお子様がたを未来へむけて送り出したいという思い故のことなのです。