お若いお母様の悩み
当教室にはたくさんのお母様がおいでになります。いそがしいお仕事や育児の合間を縫い、時間をさいてお子さまと共に当教室に通われるお母様です。
近い将来お受験をご希望されるお母様もいらっしゃれば、早期教育、幼児教育にご関心があり、早い段階からのお子さまの教育を希望される方、中にはまだ生後一、二年のお子さまを連れられてお越しになるお母様もいらっしゃいます。(さすがに乳児段階の年齢のお子さまはお断りさせていただいておりますが)もちろんご夫婦でお見えになるご家庭もございます。きっと、教育熱心なご夫婦なのでしょう。
ですが、中にはほとんどお母様がお一人で育児とお子さまの教育について受け持ち、考え、当教室にお通いになられているご家庭もあります。「お一人」でというのは少々大げさな表現ですが、実際そう申しあげたくなるほどお子さまの教育に関してお母様がより主体的に関わり、判断し、結論を下すというご家庭を多くお見かけします。
そうしたお母様はやはり育児や子育てのことで悩まれたり、迷われたりされることがあるのでしょう。当教室の講師もよくご相談を受けることがございます。
お受験シーズンは悩みの季節
お子さまが誕生し、喜びとともに嵐のようだった乳児の季節が過ぎ、赤ちゃんだったお子さんが「乳児」から「幼児」へと成長され、日々活発に動き回るようになると、お母様の意識もひとつ踊り場にさしかかるようです。
日に日に伸びやかに成長していくお子さんを見るにつれ、より質の高い教育を我が子にも授けてやりたいとお考えになり、小学校受験を初めとする幼児教育について真剣に検討されはじめるのもこの時期です。
しかし、同時にこの頃からお母様の悩みは生まれ始めます。お母様はやはりお子さんと最も距離が「近い」存在であるぶん、子育てひとつ、教育ひとつとっても、責任ある「当事者」としてお考えになります。
そして、実際にお子さまが年中・年長さんとなり、いよいよ間近にお受験の時期が迫ってくると、お母様はいっそうこれまでになかったさまざまな問題や課題とむきあうこととなります。
様変わりする「お受験」
当教室にもお受験をひかえたご両親がお見えになります。
別項でも申しあげたように、近年お受験はむずかしさを増し、単にお子さまの学力や面接態度だけが審査の対象になるのではなく、ご入学後広く学校側と協調し、円滑に学校生活を送ることができるのか、お子さまよりもむしろご両親をふくめたご家族の姿を見定められるようになってきています。お父様、お母様の受験における重要性は年々大きくなり、もはやご両親の実力が合否を決めると言っても過言ではありません。
そんな状況下で、ことにお母様が受けるプレッシャーは大きなものとなります。お悩みも増えます。皮肉なことに、お受験にまつわる諸問題で「我が子が伸びない」「成績が入学するレベルに達しない」と悩まれる方はほとんどおりませんが、ご自身に対する不満やご夫婦間のトラブルについては悩まれる方が多くいらっしゃいます。
その背景には、おそらく上述のようにお受験の内容が大きく様変わりつつあることにあるのでしょう。
ご両親がお子さまの足を引っぱる?
お子さまは可能性と柔軟性の塊です。お子さまは文字通り「一日で」変わりますし、毎日劇的に進化します。わたしどもがよくご両親に「うちの子は大丈夫しょうか? 今から間にあうでしょうか?」と質問されることがございますが、そのたびにこう答えさせていただいております。
「お子さまについては何も心配はございません。それよりも心配なのはご両親です。ご両親はお受験に際し、お子さまの足を引っぱったりはなさいませんか?」と。
こう申し上げるとご両親はたいてい、はっとした顔をなさいます。お受験は家族全員で参加するものであり、いわばご家庭そのものが受ける試験といっても過言ではありません。その意味でご両親はお子さま以上に受験(とその結果)に対し責任を負います。また小さなお子さまは短期間に見違えるような伸びと変貌を見せるのに対し、すでに大人になられているご両親はなかなかご自身が思い描くような理想像にたどりつくことができません。(わたくしどもが再三ご両親に覚悟を促すゆえんです)
そのプレッシャーゆえでしょうか。受験が近づく頃になるとお子さまの問題を離れて、しばしばご夫婦の間で衝突が起きることがあるようです。
いさかいの原因はさまざまですが、もっとも大きいのはお二人のお子さまに対する教育方針のちがい、ひいては子育て観や人生観のちがいによるものです。「お受験」とは、まさにこうしたこれまで見えなかったご夫婦感の齟齬が露わになる瞬間でもあるのです。
すれちがうお母様とお父様
たとえばですが、お父様はなんとなくお子さまを伸び伸びと自由に育てたいと思っておられるとします。対してお母様はなんとしても小学校受験をし、質の高い教育を受けさせたいとお考えになっている。この場合、ご夫婦の間で当然衝突が起きます。
そして、その衝突は得てしてお受験の準備の真っ最中に起きるのです。
「学歴よりも大事なものがある。子ども時代は子ども時代のためだけにあり、人為的、作為的に子どもを教育するなどもってのほか。(自分もそうやって育ったし)第一、勉強するのはまだ早いのではないか」
こう考えておられるお父様と、
「我が子の将来のため、なにより人生の選択肢を増やすためにも、早いうちからのお受験はぜったいに必要。この子が大きくなったとき、自分の夢や希望がかなえられるようによりよい教育環境を与えてあげるのは親としてのつとめ」
こう考えておられるお母様とでは、時に意見がかみあわなくなるのも当然です。この問題はなかなか深刻で、ときに夫婦げんかにまで発展することもございますが、こうした齟齬がこれからお受験に臨まれるという直前に現れる理由のひとつには、これまでこうした育児や教育についての話し合いをご夫婦の間で真剣にされてこなかったことに原因があるのでしょう。
あらためてじっくり話し合う
以上は一例ですが、ご夫婦間のトラブルはしばしお見受けする事態です。家で夫婦げんかをしつつ、同時にむずかしい試験や面接をこなしてめでたく合格できるほどお受験は甘くはありません。
ましてや小さなお子さまはデリケートです。ただでさえいつもとちがう環境に置かれ、緊張しているお子さまがご両親がけんかしている姿を間近で見て十分な実力を発揮できるはずがありません。
そうならないために、やはりお父様とお母様は事前にじっくりと子育てや互いの教育観について、そしてなにより将来お子さまにどんな人生を送ってほしいのか真剣に話しあわれることが重要です。
もちろんご夫婦と言ってもふたつの別々の人格ですし、それぞれに異なる考えをすりあわせていくのは大変な作業です。しかし何度も話しあいを続け、お二人で共有するコンセンサスを見つけなければ苦しむのはお子さまです。
そしてひとたびご両親の意見が一致し、明確に目標が定まっていればお受験の難しい局面でもお互いに助け合ってがんばれますし、そんなご両親の姿はお子さまにも必ず伝わります。
ご家族がひとつになればきっとよい結果が生まれることでしょう。
豊富な知識と経験をお母様に
長いものでわたしどもが幼児教育の現場に携わるようになって半世紀が過ぎました。
その間、時代の移り変わりと共に日本の社会は大きく様変わりしました。しかし、わたしどもが日々接する子どもたちの活発な姿や元気な笑顔は以前と少しも変わりありません。
しかし一方で女性の働き方や育児・教育制度の多様化のせいでしょうか。近年、とくにお若いお母様の間でお悩みが深くなっているようにお見受けします。学校や幼稚園での問題、ご家庭での問題、お子さまの進路に対する不安、ご自身の育児に対する疑問やお悩み・・・。
子育てに際してお母様が抱える責任と負担は年々大きくなりつつある中、その都度、お若いお母様は時にご自身の仕事を抱えながらそれら難問に向き合わなければならない―――。それが近年お母様を取り巻く子育ての現場の風景ではないでしょうか。
当教室ではもう何年も前からお母様方に対し、育児や教育の相談を行っております。ご相談はお子さまの年齢やご家庭の環境によって様々ですが、お悩みはお子さまの問題だけに限りません。なかにはご夫婦間のすれ違いや旦那様に対するご不満(子育てに対して非協力的など)をぶつけられる方もおられます。
わたしどもは長年の経験に即し、ひとりひとりのお母様に対しできる限りのアドバイスをさせていただいております。またお子さまの成長や周囲の環境の変化に対しても、その都度親身になってご意見やご助言をさせていただいております。
子育てには長い時間が必要です。お子さまがお兄さんお姉さん、そして大人になるまで、ご両親は辛抱強くじっと見守り続けなければなりませんし、仮に育ったとしてもお子さまがご両親の望み通りにお育ちになるとは限りません。しかしそれは当然です。なぜならお子さまの人生はお子さま自身のものであって、母親も父親もその手助けをすることはできても、子どもに成り代わってその人生を主役として生きることはできないからです。お子さまは他でもないご自身の力で、自分の人生を豊かに切り開いていくのです。
幼児教育はその最初の大切なステップでもあります。
お子さまがご両親の愛情の下、健やかに成長されること。そして、いつの日か社会や未来に貢献するような輝かしく素晴らしい存在となること―――。そのことがわたしども当教室の講師たち全員の願いでもあるのです。